諸君は“肉吸い”をご存知だろうか

なんだか具合が悪かった。

どうも二日酔いっていうか、まだ酔いが残っているのか、どうにもダルい感じがする…のだが、いやちょっと寒気もする気がして胃もむかつくような? こりゃもしかして風邪かもしんない咳とか鼻水とかじゃなく胃腸にクる系の風邪ひいちゃったのかなこれ、あ、とりあえず寒気と虚脱感がどんどんヒドくなる予感があるな、こんなときくらい酒を飲むのはやめておいて帰ったら速攻で寝よう…だがその前に、なんかハラ減ってはいないんだけど暖かいものをハラに入れておいたほうがいいような気がする、とはいえ食欲はないっぽいし、それでもなにかしら栄養っぽいものを摂取しておくべきだと思える…

と、いうようなときにピッタリなのが、“肉吸い”なんだよね。

さて、俺が住んでいるのが大阪であれば、肉吸いのオーダーは簡単であろう。
だが、残念ながらそうではない。
そうなると、肉吸いとはどういうものか、説明する必要があるだろうと予想された。

帰宅途中、うどん屋に寄った。
店員のオバチャンにオーダーする。
「肉吸いください」とは言わない、そう言っても通じないだろうから。

「すみません、肉うどんのうどん抜きください」
そうオーダーしてみた。
そう言ったほうが“肉吸い”という固有名詞を出すよりは、簡潔に、相手に伝わりやすいオーダーだと思ったのだ。
が、オバチャンは怪訝な表情…でありつつも言ってることは伝わった様子で、スープと肉だけが欲しいのだと察してくれたようだ。
「そこに、たまご入れてもらえますか」
と言い添えたら、オバチャンの混乱を招いてしまったようであった。
怪訝な表情から、ナニイッテンダコイツみたいな表情へ変わったように見えた。
が、オバチャンは調理の作業へ移行するように見えたので、オーダーは無事に通ったなと見て席へ着いた。

が、オバチャンが席のところまでやってきた。
「肉と、たまごでいいのね? スープは要らないのね?」
「いえ、スープは要ります、うどん抜きで、スープに肉にたまごです」
ああ、納得はされていなかったのか。
「あの、スープはお金をもらわないとね、あのね…」
「ああ、はい、お金は取ってください勿論、うどん抜きでも肉うどんと同じ代金でいいです」
ふむ、どうやら金をケチりたくて、うどん抜きという注文の仕方をしたのだと思われたようだ。
俺が貧乏そうな(実際に貧乏ではある)変なオッサンだから、オバチャンが妙に気を遣ったというか心配してくれたのだろう。

そういうやりとりを経て、ようやく望むものが、望むものに近いものが運ばれてきた。
はい、こんな感じ。

肉吸い、っぽいもの

たまごが、煮込まれていれば理想的ではあるが。
だいたいこんなところで妥協しておかざるを得まい。
豆腐なんかはいってると嬉しいが、欲を出してはいけない。

運んできてくれたときもオバチャンは、まだ完全には了解できていない様子だったが、俺が満足そうにしているのは伝わったようで、オバチャン的にも客の要求を満たしたという達成感が少しあったかもしれない。

「これでいいの? こんな注文されたことないから」
「いえ、こういう食べ方あるんですよ、関西のほうで」
「いやぁ知らない、お客さんが注文したのが初めて」
「ちょっと具合が悪いときに、いいんですよこれ」
さぁ食べよう、という前に、上記のようなやりとりがあった。

さて、ようやく食べられた肉吸い…っぽいものは、寒気がしていた身体に染みた。
ちょっと苦労して注文をした甲斐もあってか、美味しくいただいた。

もっとも、ここまで長文で肉吸いについて書いておいてアレだが、俺は本物というか本場で肉吸いを食べたことはないんだけどね。
何度か自分で作ったり、やはり“肉うどん肉抜き”というオーダーをして、何度か食べたのみだ。
福岡では、うどん居酒屋とでもいう業態の飲み屋があって、そういう店だと肉吸いっぽいオーダーは通り易いんだけどね、今回はけっこう苦労したかな。
もっとも、今回の店が悪いわけでは、まったくない。

会計をお願いしたら、肉うどん単体の価格より請求額が安かった。
『肉うどん+たまごトッピング』の合計金額を払うつもりであったのに、どうやら『肉トッピング+たまごトッピング+スープ』という計算をしてくれたようだ。
あら安いですね、なんかスミマセン、と一言いって店を出た。

日本各地のローカルなメニューがテレビ番組などで取り上げられたりして、地方の食べものが全国区の知名度になることも多くなった昨今ではある、と思うんだが。
まだまだ“その地方でしか知られていない食べもの”ってあるんだよね。
ま、そのほうが旅先でメシを食う楽しみってのがあるよね。

そうだ、近いうち大阪に肉吸い食べに行こう。

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